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阿部 博之 氏「知のエートス - 新しい科学技術文明創るために」
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社会的な関心が高い分野、重点分野とされている研究を指導する方たちに、研究の意義や方法を聞きました。
阿部 博之 氏「知のエートス - 新しい科学技術文明創るために」
科学技術が日本の将来の鍵を握るということは、よく言われてきた。しかし、日本の高等教育はこれでよいのか。大学のあり方は今のままでよいのか。これまでこのような議論はきちんとなされてきたのだろうか。2007年1月まで総合科学技術会議議員として、今の第3期科学技術基本計画を策定する上で中心的役割を果たされた阿部博之・元東北大学総長が、議員退任後に科学技術のあり方を根本から問い直す目的の研究会を主宰している。その最初の活動成果とも言える本「科学技術と知の精神文化−新しい科学技術文明の構築に向けて」(丸善)が出版されたのを機に、阿部氏が21世紀の日本人に必要だとする精神的基盤「知のエートス」とは何か、をうかがった。
第1回 21世紀にふさわしい価値志向
(掲載日:2009年5月27日)
- このような議論が必要だと考え、研究会を立ち上げた動機からうかがいます。
阿部 博之 氏
大阪大学で教授を務められた後、長い間、英国で経済学の教授をされていた森嶋通夫先生は日本の将来を非常に心配していました。森嶋先生のいわんとすることを私なりに翻訳しますと、日本は第2次世界大戦後、焼け跡から、工業が壊滅したところから立ち上がった。だれが復興をやったかというと、戦争から帰ってきた人たち、海外から日本に戻ってきた人たちと、日本にいた人たちだが、すべて戦前に教育を受けた人だ。その人たちが戦後に、昭和20年代、30年代前半ぐらいに教育を受けた人たちを指導しながら、科学技術を中心に日本を経済大国までもってきた。なぜそれができたか。戦前に受けた教育が体の中に染みわたっているからだ。それは超国家主義的なものではなく、儒教だと森嶋氏は言うんですね。日本型儒教の影響だ、と。
つまり、戦後、日本は戦前の教育を否定したけれども、こういうことをやってはいけないといった親の教育や礼儀のようなものまで否定したわけじゃなく、ものの考え方の基本は各家庭や職場に残っていたわけです。戦前の教育には国家主義的なものもありますから、それを否定したのはもちろん意味がありますが、そのバックになっている日本型儒教を基にした日本人のエートスや倫理観も、一緒に否定または軽視したわけです。それを続けていると、だんだん廃れてくるわけですね。だから、それらが希薄化してしまうのが1990年代ぐらいで、その後はもう日本は駄目になるということを森嶋先生は強く言っています。2050年には、日本は工業国として世界でとるに足らない国になる、と。
要するに日本人の持っていたエートスが希薄になって廃れてしまった、ということを有名な経済学者が大いに心配しているわけです。確かに言われる通りかもしれないが、何とか21世紀にふさわしいエートスをつくることはできないか。超国家主義的な思想は、もちろん否定していくものの、もう少し根っこにある日本人のいい点を含めて、21世紀にふさわしいエートスをつくっていく努力はすべきではないか、というのが基本的な願望なんです。これは1人でできることではありませんから、多くの識者とともにやっていこう、というのが研究会を立ち上げた動機です。
- エートスという言葉は一般の人になじみがないかと思われますが。もう少しご説明いただけますか。
人類全体の歴史を見ますと、さまざまな文化圏で、いろいろな「知」の形が存在します。ある文化圏の知的活動を方向づける価値志向があると考えられるわけです。知的行為に社会的な意味と役割を与えるものとして「知のエートス」がある、という説明があります。知的エートスと知の精神文化とがどう重なり合うか、どう違うかについてはまさに、この研究会で議論してみたいということの一つなのです。
私は2年前の1月まで、総合科学技術会議の常勤議員をしており、特に第3期科学技術基本計画は、筆頭議員の立場でドラフトをつくる仕事をしたわけです。例えば「5年間に25兆円の研究開発費が必要」と第3期基本計画に盛り込むことや、毎年の科学技術予算のあるべき姿などを首相の決断を得つつ、一生懸命進めたわけです。
お金というのは、研究開発を進める上でも教育の人材育成の面でも非常に大切です。ですが、お金だけで研究が進む、研究の芽が出てくるわけでもありません。人間というのは、もう少し精神的なバックグラウンドによって、自分は技術者になりたいとか、あるいは科学の道を進みたいとか思うものではないでしょうか。自分が育った環境であるとか、中学校や高校でどういう先生にめぐり会ったとか、大学でどういう先生の指導を受けたといったことによるのではないかと思われます。
今は国家試験に通るなど、生活が安定するような道を歩みたいと望む人が少し多いかもしれません。しかし、世俗的な計算だけで自分の一生を決めているわけでは必ずしもないのではないでしょうか。安定的な職業に就きたいとか、お金のたくさん入る職業に就きたいとかだけではなく、それぞれの人間の個人的な精神文化、その人を取り巻いている精神文化に大きく依存しているに違いないだろうと考えるわけです。
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続く
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2008年11月10日レビュー【
特許に見る科学技術基本計画の効果
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2007年11月 2日レビュー【
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2007年 7月 6日レビュー【
本物を見分ける最初の伯楽は
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2007年 7月 5日ハイライト・阿部 博之・前総合科学技術会議 議員、元東北大学 総長【
にせ物と本物とを区別するのは
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阿部 博之(あべ ひろゆき)氏のプロフィール
1936年生まれ、59年東北大学工学部卒業、日本電気株式会社入社(62年まで)、67年東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。77年東北大学工学部教授、93年東北大学工学部長・工学研究科長、96年東北大学総長、2002年東北大学名誉教授、03年1月-07年1月、総合科学技術会議議員。02年には知的財産戦略会議の座長を務め「知的財産戦略大綱」をまとめる。現在、科学技術振興機構顧問。専門は機械工学、材料力学、固体力学。
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