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阿部 博之 氏「知のエートス - 新しい科学技術文明創るために」
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社会的な関心が高い分野、重点分野とされている研究を指導する方たちに、研究の意義や方法を聞きました。
阿部 博之 氏「知のエートス - 新しい科学技術文明創るために」
科学技術が日本の将来の鍵を握るということは、よく言われてきた。しかし、日本の高等教育はこれでよいのか。大学のあり方は今のままでよいのか。これまでこのような議論はきちんとなされてきたのだろうか。2007年1月まで総合科学技術会議議員として、今の第3期科学技術基本計画を策定する上で中心的役割を果たされた阿部博之・元東北大学総長が、議員退任後に科学技術のあり方を根本から問い直す目的の研究会を主宰している。その最初の活動成果とも言える本「科学技術と知の精神文化−新しい科学技術文明の構築に向けて」(丸善)が出版されたのを機に、阿部氏が21世紀の日本人に必要だとする精神的基盤「知のエートス」とは何か、をうかがった。
第3回 大切な基本的文化
(掲載日:2009年6月8日)
- 研究会のワークショップでいろいろな学者が講演された内容をまとめられた「科学技術と知の精神文化-新しい科学技術文明の構築に向けて」で、提示されたものはどのようなものでしょう。
阿部 博之 氏
21世紀の科学技術文明を日本が日本なりにリードしてつくっていく立場に立つには、新しい社会を創造する、そういう体系的な倫理観というものが必要になってくるわけです。われわれは今その答えをもっているわけじゃありませんので、やはり先人、昔の人がつくり上げた知恵にヒントがあるのではないか。中には21世紀に向かないものもありますが、向いているものもたくさんあるはずだ、と考えました。先人の知恵をまず勉強しながら、あまり急がないで問題提起をしていくことから始めようとしたわけです。
人によって、どっち向いているのか分からないように見えるかもしれませんが、それは今、意識的に収束させていないんです。1年や2年で1冊の本でそれの答えを出すということはすべきでない、と思っていますから。知の精神文化に何らかのかかわりがあれば、各執筆者がそれぞれご関心のあるテーマで書いていただければいいということで、次の第2弾の本も出して、少しずつ議論を広げて深めていきたいと考えています。
- ただ皆さんお書きになっている中で、日本の将来に危機感を持っているという共通点を感じましたが。
いろいろおもしろい意見があります。この本に必ずしも詳しく書いていないのですが、たまたま昨年9月にマネー資本主義的ないわゆるサブプライム問題が出てきたでしょう。これは、やはり米国の経済人の一種のおごりだとも思うのです。米国がなぜ世界一の資本主義国家になったかというと、ピューリタン精神、プロテスタンティズムがありまして、これはお金をもうけることを非常に嫌うんです。そうした精神が資本主義を発達させたということをマックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」 という著書の中で言っています。
- それは逆説的な言い方のように聞こえますね。
逆説的に聞こえるんですが、本の構成が上手だから、逆説になっていないんです。ですが、逆説的なんですよ。それと非常に似たことが日本の江戸時代に出てきており、その流れとも言える渋沢栄一あたりの資本主義は、お金をもうけることを、少なくとも大金をもうけて懐に入れることを嫌っているのです。パブリック(公共)のために使うべきだ、と。
- それで矛盾しなかったわけですね。
ええ。これは私も本にちょっと書きましたけども、石田梅巌が京都で興した石門心学も全くそうですね。これは偶然の一致だと思います。プロテスタンティズムを石田梅巌が勉強しているわけでもないですから。さらにもうちょっと前、鈴木正三のように江戸時代の初期からそういう思想があるんですね。
それから、プロテスタンティズムの中でもう1つ大事なことは、ベルーフ(天職)という自分の職業、働くことが大切だという思想があるのです。日本もそれが江戸時代に非常に強いのです。たまたま偶然に一致しているのですが、そういう精神が米国に強く残っていれば、私は、ああいうサブプライム問題など起きなかったと思うんです。いまや米国の経営者は、もうけたものは全部株主か自分の懐かですから(笑い)。
- 確かにあんなに役員報酬もらって使い切れるものかと(笑い)。
ええ。だから、それは本来の米国の精神ではないと思うのです。どこからか狂っちゃったんです。だから、資本主義はおかしくなってしまったのです。資本主義というものがこれからも続くと仮定した場合には、少なくともそういう精神文化とのかかわりが非常に重要ではないかと思うわけです。
今、オバマ米大統領になり、多少、揺り戻しがありますが、やはり行き過ぎだったんだと思います。日本もそれに振り回されているわけですよ。日本のエコノミストも、米国のように東京を金融資本主義の中心にしようとか。株主ばかり優遇するようなそうした金融行政を志向した学者も少なからずいました。今、急に、そういう人たちを批判する声が大きくなりましたけれども、本当はもっと前に批判しなきゃいけない(笑い)。
日本のわれわれの先祖をみても、非常に慎ましやかでした。例えば、土光敏夫さんなどものすごく質素な暮らしをしていたという話でしょう。目刺しを好んで食べていたとかね。若くして石川島播磨や東芝の社長などになった人の生活です。豊田佐吉さんも同じです。自動織機で欧州から知的財産収入が相当入ったことがあるんです。それをどうしたかというと、自分の懐には全く入れないで、これからの研究開発にあてたほかは、従業員に分けてしまったのです。日本にもそういう美風というものがあったのです。そうでないと、日本中がジェラシー(しっと)の世界になってしまいます。金もうけはけしからんということになりますし、何かつまらないことですべてがうまくいかなくなります。お金をもうけたら懐に入れるか株主へ、という方向に近年、日本の企業も少し引っ張られました。私どもの先人がつくったある種の基本的な文化というのは、今後も大切なような気がするんです。
科学技術の問題というのは、実は科学技術にとどまらないで、日本人がどう生きていくかということでもあります。かつては日本の社会、いや日本だけでなく欧米にもそういう心意気というか、人生哲学があったのだと思います。
(
続く
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阿部 博之(あべ ひろゆき)氏のプロフィール
1936年生まれ、59年東北大学工学部卒業、日本電気株式会社入社(62年まで)、67年東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。77年東北大学工学部教授、93年東北大学工学部長・工学研究科長、96年東北大学総長、2002年東北大学名誉教授、03年1月-07年1月、総合科学技術会議議員。02年には知的財産戦略会議の座長を務め「知的財産戦略大綱」をまとめる。現在、科学技術振興機構顧問。専門は機械工学、材料力学、固体力学。
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