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佐藤 勝昭 氏(科学技術振興機構 さきがけ「次世代デバイス」研究総括)
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学術、科学技術がかかわる世界でいま何が求められているかを、第一線の研究者やジャーナリストに提言してもらいました。
科学研究に国民目線を - 基礎研究支援の現場から
科学技術振興機構 さきがけ「次世代デバイス」研究総括 佐藤 勝昭 氏
(掲載日:2010年1月29日)
事業仕分けの教訓
科学技術関係者にとって2009年の最大の衝撃は新政権の行政刷新会議による「事業仕分け」であった。これまでは科学技術基本計画を錦の御旗に聖域であった科学技術予算への容赦ない事業仕分けが公開され、国民の注目を集めた。これに対して、ノーベル賞級科学者の反対声明が出され、海外の著名科学者からも憂慮が伝えられたほか、文科省には15万3千件を超えるパブリックコメントが寄せられたという。
しかしながら、もっと衝撃的であったのは、マスコミに寄せられた国民の声であった。マスコミ各社は、社説などで科学技術振興の重要さを説き、「短期的な費用対効果で一刀両断に科学技術予算の削減を求める事業仕分け」に批判的な論調を展開したが、国民からの声の6-7割は「科学者は傲(ごう)慢」という批判であり、科学者に同情的な声は1割程度に過ぎなかったという
(注1)
。スパコン予算の復活にしても「ノーベル賞学者が出てきたから政策論議なく物事が決まるようでは政治的には未熟」との識者コメントもあった
(注2)
。
最終的に12月末に発表された2010年度予算案では、一部の事業は新規事業の停止に追い込まれたものの、基礎研究関係予算はパブリックコメントを受けてトータルでは微増となり関係者は胸をなでおろしたが、復活の過程が不透明であるとの批判が一部に残った
(注3)
。
今回の一連の動きを通して、私たち基礎研究支援のファンディングを行っている当事者は、大きな教訓を得たと思う。これまで私たちファンディング機関は、総合科学技術会議、文部科学省、および支援を受ける研究者の方を向いて説明責任を果たしておればよかった。しかし、「科学技術予算のGDP(国内総生産)比が先進各国より非常に少ない」という政策当局向けのアピールは、国民に対してもはや説得力を持たない。
ファンディング機関も科学者も今後は、もっと国民目線に立つべきであろう。私たちは、基礎研究についてその成果がどのような形で将来の科学技術の発展に結びつくのか、なぜその研究が必要なのか、なぜそれだけの研究費は必要なのかなどを分かりやすい言葉で語るべきであろう。
JSTのファンディング - さきがけを例として
さて、行政刷新会議は今後、独立行政法人、公益法人の事業仕分けに取りかかると報道されている。基礎研究に関係するファンディング機関としては、科研費を扱う(独)日本学術振興会(JSPS)と戦略的創造事業を扱う(独)科学技術振興機構(JST)の2法人の役割分担が問われることになろう。ここでも、両機関はその事業の目的の違い、性格の違いを国民目線に立って分かりやすく説明することが求められている。以下に、筆者の経験にもとづいて、JSTの戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)(以下、さきがけ研究と略称)が科研費とどう違うかについて述べる。
筆者は、2007年よりJSTのさきがけ研究「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」の研究総括を拝命することとなり、はじめてJSTのファンディング事業について知ることとなったのであるが、JSTのファンディングが科研費とあまりにも異なることに驚きの連続であった。
まず、科研費は研究者に対する文科省の補助金であるのに対し、戦略的創造研究推進事業は運営費交付金で行うJSTの事業であることだ。科研費は、研究者の自由な発想に基づく研究提案のうち学術的に優れたものに交付されるのに対し、JSTの戦略研究は文科省から示された戦略目標に沿って、優れた研究者の研究力を飛躍的に伸ばそうとする目的基礎研究なのである(戦略目標の決め方にも国民目線が必要とは思うが、ここではそれに触れない)。JSTは戦略目標に沿って「研究領域」を定め、担当者はこの領域の目利きとしての「研究総括」を、これまでのノウハウの蓄積をもとに多くのヒヤリングを通じて探し出すのである。総括選びは単なる事務作業ではないので、しっかりとした科学知識が必要で、研究経験を持つ職員が担当していることが多い。
筆者が研究総括に就任するや、担当職員から、「公募に当たっての総括のねらい」を「戦略目標」に沿って作成することを要請された。この点は、研究代表者が自らの意志で「公募要領」を作成する科研費の特定領域研究と本質的に違うところである。
多数の応募課題から採択課題を選考するプロセスも重要である。アドバイザや外部評価者の助けを借りて書類選考→面接選考という2段階選考を行うが、単純な合議制はとっていない。最終判断において総括の考えが尊重される。いくら研究内容が優れていても「領域のねらい」に合致しない課題は原則として採択されない。一方では、普通なら採択されないようなリスクのある研究も採択される。ここに、トップダウンの精神が貫かれており、ボトムアップ型の科研費との違いが明確である。
さらに驚いたのは、研究総括がサイトビジットを行っていることである。総括は、技術参事、事務参事とともにすべての採択研究者の機関を訪問し、上司に研究環境への配慮をお願いするのである。訪問してみると、研究者が所属する機関によって、研究環境は天と地ほどの差があることが見られ、研究者を一律に扱うべきではなく、一人一人の研究条件に応じたマネージメントをすべきであることが分かる。
さきがけ研究には領域会議が年2回セットされており、合宿形式で総括・アドバイザと研究者、あるいは研究者同士が夜遅くまで徹底的に議論する。研究者は10倍の競争率の中から採択されたという意識が強いので自信を持っていて、熱く、時にはシビアな議論を展開する。またほとんどの領域が分野横断的な研究者構成なので「さきがけで築かれた異分野研究者間のネットワークがその後の研究に大いに役立った」と語るさきがけ経験者は多い
(注4)
。この点も異分野間の交流の少ない科研費の特定領域研究との違いである。
さきがけでは原則として3年半で約4千万円の助成が行われるが、成果が出つつある研究へは研究総括の判断で弾力的な加速資金の配分が行われる。また、研究者の発案によるワークショップ開催への支援など、自発的な研究活動を組織的に見守る面倒見のよいファンディングであって、研究費渡し切りの科研費とは違うことがお分かりいただけよう。
多くのさきがけ研究者がこの支援を足がかりとして研究力を伸ばし、わが国のイノベーションを支える中核的な研究者になっている。さきがけの支援は科研費に比べればコストがかかることは事実であるが、長期的に見てこの制度がわが国の基礎研究力を支えていることにご理解をいただき、今後とも国民のご支援をお願いしたいと考えている。
(注1)
科学技術振興機構と報道各社科学部長懇談会でのある新聞社科学部長発言
(注2)
サイエンスポータル・佐藤 文隆 氏
インタビュー記事
(注3)
日本経済新聞2010年1月10日朝刊「中外時評」(滝順一論説委員)
(注4)
2008年度さきがけ「状態と変革」追跡調査報告書
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佐藤 勝昭(さとう かつあき) 氏のプロフィール:
1960年大阪府立北野高校卒、64年京都大学工学部卒、66年京都大学大学院修士課程(電気工学)修了、NHK入局、大阪放送局勤務を経て68年基礎研究所入所、84年東京農工大学工学部助教授、89年教授、05年東京農工大学理事副学長(教育担当)、大学教育センター長、07年から科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」研究総括。東京農工大学工学府特任教授も兼務。東京農工大学名誉教授。工学博士。専門分野は応用物性、結晶工学。著書に「理科力をきたえるQ&A-きちんと答えられる大人になるための基礎知識」(ソフトバンククリエイティブ)、「金色の石に魅せられて」(裳華房)、「光と磁気」(朝倉書店)など。洋画家でもあり「日本画府(日府展)」洋画部常務理事も。
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